娘深雪
生涯にわたり理想の女性像表現を模索し続けた松園の代表作の一つ。
浄瑠璃や歌舞伎でおなじみの「朝顔日記」のヒロイン。
宇治川へ蛍狩りに来た宮城阿曽次郎という青年と、秋月弓之助の娘・深雪は、出会った瞬間にお互い惹かれあいます。阿曽次郎は、深雪の持っていた扇に次の歌を書いて渡します。
その後、二人はそれぞれの事情で離れ離れとなり、思いつめた深雪は泣きはらし、盲目になってしまいます。再び出会うも、目の見えない深雪は阿曽次郎が目の前にいても気がつきません。幾度もすれ違いを繰り返す二人。メロドラマのような恋愛ストーリーが展開される「朝顔日記」ですが、一貫して描写されてます。前髪をとった下げ髪は清楚で、わずかに開いた口元は花びらのような愛らしさです。珊瑚色の総鹿の子の中振袖の袂と裾には葦が描かれ、深雪と阿曽次郎が初めて出会った宇治川のほとりを連想させます。帯は女方歌舞伎役者・水木辰之助が結んだことで人気のあった「水木結び」。深雪が奏でていた筝の龍頭には螺鈿細工や金彩が施されています。