序の舞
<序の舞>は松園の理想や心情の強く表された作品である。 この作品のモデルには、松篁夫人のたね子が選ばれた。たね子は京都で一番と評判の結髪師に文金高島田(ぶんきんたかしまだ)を結ってもらい、婚礼の時に着た大振袖を着て、序の舞の姿で立った。松園は構想の段階では、丸髷を結った地味な若妻を画こうとしたが、舞の二段おろしが短い袖では無理と判り、急遽振り袖の令嬢風に改めた。松園の作品としては珍しく、現在風俗の令嬢だが、そこに、現代の女性にむけた教育的な意味が含まれているようでもある。髪型や着物などの、微細な部分にも示されるこだわりは、男性の美人画家には到底画けまいとする、松園の自負の表明なのであろう。「幾分古典的で、優美で端然とした心持ちを、私は出し得たと思っています。」松園自信の出来栄えであった。